概要
脳死・臓器移植をテーマに、一般から公募する15人の市民パネルが、専門家との対話を通じて、じっくり考え議論するイベント「市民が考える脳死・臓器移植」を、2005年1月29日・2月5日・26日・3月5日の4日間、東京都内で開きます。
このイベントは、科学技術政策への市民参加手法に関する研究プロジェクトの一環として、主催者が新しく開発した会議手法を試行する社会実験として行います。15人の市民パネルは、関連分野の専門家との対話を通じて問題への理解を深め、意見交換をし、最終日には議論の成果をまとめて広く社会に向けて発信します。
この社会実験は、市民パネルに参加して下さる方々、専門家の方々、メディアの方々をはじめ、多くの皆さまのご協力により、初めて開催できるものです。趣旨をご理解いただき、ご支援・ご協力のほどお願い申し上げます。
企画の背景―科学技術への市民参加の必要性
遺伝子治療・診断や臓器移植、遺伝子組み換え作物、原子力発電など、高度化した科学技術が私たちの日常生活にさまざまな影響を及ぼすようになるにつれ、科学技術の利用やコントロールは、専門家や行政のみに委ねられない社会的な重要課題になっています。そうした中、近年ますます、科学技術への市民参加が叫ばれるようになってきました。
私たち市民参加研究会は、科学技術に関する政策形成に市民が参加するための手法やシステムについて、財団助成を受けて研究している研究者集団です。代表の若松らは、欧米で用いられている手法を導入して、7年前から、科学技術への市民参加の社会実験を積み重ねてきました。
たとえば、1998年に国内で初めて試行した「コンセンサス会議」方式は、その後、遺伝子組換え農作物をテーマに農水省が主催した会議で実用化され、科学技術への新たな市民参加の手法として、『科学技術白書』などでも紹介されています。これ以外にも、私たちは、住民や専門家などが議論しながら地域の未来像をつくりあげる「シナリオ・ワークショップ」や、集団面接で特定の課題についての意見の広がりを知る「フォーカス・グループ・インタビュー」などの手法を試みてきました。
新手法開発・試行−「ディープ・ダイアローグ」(仮称)方式
様々な手法の経験をふまえ、課題に即したオリジナルな市民参加手法を設計・試行することを目指して、このたびのイベントを企画しました。今回用いる手法は、コンセンサス会議方式(1)をベースに新たに開発・設計した、「ディープ・ダイアローグ」(深い対話)(仮称)という手法です。
参加者である市民が、「専門家」(学識経験者だけでなく、利害関係者や市民団体なども含みます)と より深く対話できるよう、会議手法の設計を工夫しました。市民パネルは、関連する分野の多様な専門家から基本的な情報提供を受け、問題への理解を深めます。そして、市民から専門家に対して疑問点や不安な点などを質問として投げかけたうえで、専門家との対話、市民パネル同士の議論を深めていきます。
コンセンサス会議方式では、市民パネルが課題についての「コンセンサス」(合意)を得ることを目標としますが、今回の手法では、市民パネルが合意に至ることを必ずしも目指しません。与えられた課題について、「いま社会として何をどう考えるべきか」=「市民の提案」をまとめることを最終目標とします。
- 関連Webページ
- 1) AJCOST:http://ajcost.memenet.jp/
脳死・臓器移植をテーマに
議論のテーマは、脳死・臓器移植です。日本では、1968年に国内初の心臓移植(いわゆる和田移植)が行われ、その後、長年の議論のすえ1997年に脳死からの臓器移植を可能にする「臓器移植法」が制定・施行されました。国内では、これまでに31人の脳死者から臓器提供がなされ、心臓や肺など計121件の移植手術が行われました(2004年11月21日現在)。
いま、脳死者からの臓器移植をさらに促進することを目指して、臓器摘出の条件をゆるめる法改正が議論されています。たとえば、生前に臓器提供を拒否する意思を示しておかないかぎり、家族の承諾のみで脳死からの臓器摘出が可能になるシステムや、臓器摘出の可能年齢を15歳未満の子どもにも拡大する制度改正などが提案されています。2005年には、国会で本格的な改正議論が始まる可能性もあります。その一方で、本人の意思表示なしの移植や子どもからの臓器摘出といった案だけでなく、脳死者からの臓器移植そのものにも根強い抵抗があります。
この問題を、私たちはどのように考えればよいのでしょうか。これまでも様々な議論がなされてきた脳死・臓器移植をめぐって、いま何が本当の課題であり、今後、私たちの社会はどんな決断を下すべきなのでしょうか。
「市民が考える脳死・臓器移植」では、こうした問題を、2005年1月から3月までの4回の土曜日を使って、一般から募集する15人の市民パネルがじっくり考え、話し合います。最終日の3月5日には、市民パネルとしての議論の成果を「脳死・臓器移植問題に対する市民の提案」としてまとめ、社会に向けて発信します。
主催者の紹介−市民参加研究会とは?−
イベントを主催する市民参加研究会(代表 若松征男(1)・東京電機大学教授)は、科学技術についての政策形成・決定に市民が参加するための方法・システムづくりを、笹川平和財団(2)の助成を受けて研究している研究者集団です。代表の若松らは、1997年から、遺伝子組換え作物や情報技術、環境政策など、科学技術をめぐる政策形成・決定に市民が参加するための方法を研究してきました。
- 関連Webページ
- 1) 若松征男:http://www.i.dendai.ac.jp/~wakamats/
- 2) 笹川平和財団:http://www.spf.org/